2014年02月10日(月) 12:00
ノースフライト
◆遅れて来たトニービンの大物
名血はいつの世も、お金のあるところへ流れていく。第2次世界大戦後、サラブレッドを育ててきたイギリスの国力が衰退。代わってアメリカが世界の主導権を握ると、サラブレッドの血統もアメリカがリードするようになった。
1980年代の終わりには日本へ向かう流れが起きた。降ってわいたバブル景気が、昔なら目の前にどんな大金を積まれても、日本に売ることのなかったパワーバランスを、大きく変えたのだ。この時代には信じられないほどの世界的な名馬、名牝、名種牡馬、良血の競走馬が日本に入っている。
ノースフライトの父トニービンが、その1頭だった。欧州伝統の大レース、凱旋門賞を勝った名馬で、現役時代に金銭トレードが成立し、引退と同時に日本にやってきた。それまで日本に入る海外の名馬は、種牡馬としては「見切り品」がほとんどだったが、バブルが「新車」の購入を可能にしたのである。
トニービンは期待にたがわず、いきなり初年度産駒からベガ(桜花賞、オークス)、ウイニングチケット(日本ダービー)を出し、春のクラシックに大旋風を巻き起こす。
ノースフライトもトニービンの初年度産駒だった。ところが、生まれつき体質が弱く、やっとのことでデビューしたのは、ベガが桜花賞を勝った3週間後。1993年5月1日のことで、もうすぐ春のクラシックが終わろうとしていた。
それでも9馬身の圧勝。続く条件戦も8馬身の圧勝で2連勝を飾る。「遅れて来たトニービンの大物」と騒がれるなか、3戦目を落として株を下げたが、続く初重賞挑戦の府中牝馬Sを鮮やかに勝利。さらにGI初挑戦のエリザベス女王杯でも、並み居る強豪と対等に戦って2着に善戦し、潜在能力がただものではないことを証明した。
その後、GIIIの阪神牝馬特別を勝ち、年が明けた1994年もGIIIの京都牝馬特別、続くGIIのマイラーズCもレコードで3連勝した。マイルのスピードと切れ味なら、一線級の牡馬と戦っても何ら見劣りしなかった。これに自信を得た陣営は、マイルGIの安田記念に照準を合わせる。
迎えた1994年5月の安田記念。門戸開放で外国産馬、海外に籍をおく外国馬が大挙して押しかけ、日本馬が劣勢に立たされていた時代だった。安田記念も外国馬に参戦が認められ、前哨戦の京王杯スプリングCは外国馬が4着までを独占していた。
その4頭が揃って安田記念に出走してきたため、ノースフライトは能力の高さを認められながらも5番人気に甘んじた。だが、後方から豪快に伸びてGI初勝利を飾った。そうそうたる外国馬を蹴散らしただけに、実に価値の高い勝利だった。
秋も短距離王のサクラバクシンオーと激闘を展開。GIIのスワンSでは2着に屈したが、続くGIのマイルチャンピオンシップは逆にサクラバクシンオーを1馬身半突き放し、春秋のマイルGI連覇を成し遂げた。これは当時としては史上2頭目の快挙である。マイルの女王の称号をいただいたノースフライトは、これを最後に引退している。
初年度産駒に新たな大物を加えたトニービンは、さらに人気が沸騰。後を追って輸入されたバブルの申し子たち、すなわちブライアンズタイム、サンデーサイレンスと御三家種牡馬を形成していく。1990年代から2000年代の日本は「名馬の時代」と言われ、外国馬に負けない日本馬が次々と誕生することになるが、それはこの御三家種牡馬がつくり出したものだった。(吉沢譲治)
◆レース詳細 1994年11月20日 第11回 マイルCS(GI) 京都/芝右 1600m/天候:晴/芝:良
1着 ノースフライト 牝5 55 角田晃一 2着 サクラバクシンオー 牡6 57 小島太 3着 フジノマッケンオー 牡4 55 武豊
◆競走馬のプロフィール
父:トニービン
母:シヤダイフライト
騎 手:角田晃一
調教師:加藤敬二(栗東)
馬 主:大北牧場
生産牧場:大北牧場
※年齢は当時の旧年齢表記
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