英雄の誕生(ディープインパクト)

2014年02月24日(月) 12:00

ディープインパクト

ディープインパクト


◆「ディープインパクト劇場」開演

 2005年の夏、小泉純一郎首相が郵政解散を断行。国民の絶大な支持を受けて圧勝した。小泉劇場の始まりだった。この年、競馬の世界にもファンの絶大な支持を受ける英雄が現れた。ディープインパクトである。その強さはまさしく「ディープインパクト劇場」の始まりだった。

 2004年の秋、デビューをめざして厩舎に入ると、早くも化け物ぶりを披露する。ある日、調教師の指示したタイムよりも5秒近く速く駆けてしまった。通常なら疲労が残るどころか、故障が心配される速いタイムだったが、当のディープインパクトは汗もかかずにケロッとしている。

 これはただ者ではない。周囲の目の色が変わった。確かに、2004年12月のデビュー戦を4馬身の快勝。明けて2005年1月。2戦目の若駒Sは最後方に位置し、直線に向いたときは10馬身もの差があったが、武豊騎手がゴーサインを出すと矢のように伸び、2着を5馬身も突き放した。

 3戦目の弥生賞。あの国民的英雄ハイセイコーの記録を抜く、史上最高の単勝支持率(71.5%)を得たディープインパクトは、ムチを一度も使うことなく勝利する。

 続く牡馬クラシック第1弾の皐月賞。スタート直後につまずき、最後方からの競馬になったが、最終コーナーで初めてムチを入れると、そこからは独壇場。2着に2馬身半差で快勝した。騎手の武豊は勝利インタビューで、「走っているというより、飛んでいる感じだった」と名言を残している。

 次いで5月、牡馬クラシック第2弾の日本ダービー。東京競馬場には前年比114.8%の14万人を超える大観衆が押し寄せた。ディープインパクトが呼び込んだのだ。競馬ファンは久しく出ていなかったヒーローに飢えていた。単勝は1.1倍の断然人気。ハイセイコーが持っていた単勝支持率最高記録をまたも抜き去り、73.4%の支持を得た。

 ここでも最後方からの競馬になったが、これは想定内。後方で脚をため、最後の直線でごぼう抜きする作戦だった。そのとおり、先に抜け出したインティライミを残り200m地点でとらえると、そこからはまたも独壇場。瞬時に抜き去り、5馬身の差をつけてゴールを駆け抜けていた。ゴーサインを出すと、ゴムまりのように弾けて飛んでいく。他馬とはまるで次元が違った。

 秋になって迎えたクラシック第3弾の菊花賞。デビュー以来、連戦連勝。ここを勝てば、サラブレッドにとって最高の栄誉となる「三冠馬」の称号を得る。英雄の誕生をしかと見届けようと、京都競馬場には入場人員レコードとなる13万6701人もの観客が押し寄せた。単勝は1.0倍。勝っても、買った馬券の同額しか払戻しされない。

 ところが、ディープインパクトは途中で行きたがって折り合いを欠き、かなりのスタミナを消耗する。競馬の世界ではこれを「かかる」というが、3000mの長距離でかかってしまうと、並みの馬ならこの時点でアウトとなる。だが、最後の直線でまたも飛ぶように弾け、余裕で戴冠のゴールを駆け抜けた。

 無敗の三冠馬誕生。シンボリルドルフ以来21年ぶり、史上2頭目の快挙に、スタンドのファンは酔いしれた。その圧巻の強さは、史上最強馬と呼ぶにふさわしいものだった。

 しかし、この三冠制覇は英雄伝説の単なる序章にすぎなかった。翌年になると、ディープインパクトはさらなる化け物ぶりを発揮していくのである。

◆レース詳細

2005年10月23日

第66回 菊花賞(GI) 京都/芝右 外3000m/天候:晴/芝:良

1着 ディープインパクト 牡3 57 武 豊  3:04.6

2着 アドマイヤジャパン 牡5 57 横山典弘 2

3着 ローゼンクロイツ  牡3 57 安藤勝己 4

◆競走馬のプロフィール

ディープインパクト(牡3)

父:サンデーサイレンス

母:ウインドインハーヘア

騎 手:武 豊

調教師:池江泰郎(栗東)

馬 主:金子真人ホールディングス

生産牧場:ノーザンファーム

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