2014年04月21日(月) 12:00
◆西山牧場に現れたヒロイン
北海道むかわ町にあった西山牧場は、その昔は生産者ランキングで日本一になったほどで、社台グループに次ぐ生産規模を誇る大牧場だった。
その西山牧場がテコ入れ策の一環として、1989年、およそ2億円を投じて4頭の繁殖牝馬を輸入したなかに、マジェスティックライトの仔を宿したデュプリシトがいた。
デュプリシトは輸入されて間もなく牝馬を出産する。それがニシノフラワーだったが、馬っぷりが貧弱で、何人かの調教師に管理をことごとく断わられてしまう。やっと引き受けた松田正弘調教師にしても、後に「体の幅がなく、脚ばかりがやたら長くて、小鹿のバンビといった感じでした」と答えている。
このニシノフラワーが最優秀3歳(現2歳)牝馬に輝き、3歳牝馬クラシックの桜花賞を勝ち、短距離女王の称号を得るまでに出世するとは誰が予想したことだろう。厩舎に入ってからの調教でも、これといって目立つ動きをする馬ではなかった。1991年7月、デビュー戦で4馬身の勝利を飾ったものの、将来性はまだ半信半疑だった。夏のこの時期にデビューする馬は、将来をあまり期待されていない早熟馬が多いのである。
陣営が2戦目に重賞の札幌3歳S(現2歳S)を選んだのも、使えるレースがこれしかなかったというのが本音だった。だが、ニシノフラワーは3馬身半の楽勝で難なくクリアする。この勝利で陣営は、以後、エリート路線を走らせることになる。人間と同じで馬も、外見だけでは将来性が見抜けない。
秋初戦のデイリー杯3歳S(現2歳S)は3馬身半の楽勝。暮れの阪神3歳牝馬S(現阪神ジュベナイルフィリーズ)も勝利して、4連勝でGIのタイトルを手にしたニシノフラワーは、満票で最優秀3歳(現2歳)牝馬に選ばれた。受け入れを断わった調教師たちは、さぞかし後悔したことだろう。
ところが、明けて1992年の3月。牝馬クラシック第1弾「桜花賞」の前哨戦、チューリップ賞でよもやの2着に敗れてしまう。騎手の佐藤正雄は前年夏の札幌3歳Sの優勝が、デビュー22年目にして初めての重賞勝利という苦労人であった。しかし、地味な騎手に桜花賞は荷が重い。この敗戦で責任を感じた佐藤は、本番の騎乗を辞退した。
このため、過去に桜花賞を3度勝っている河内洋に乗り替わって臨んだが、すると楽に抜け出して3馬身半の差をつけて戴冠のゴール。華麗なる短距離女王が誕生した瞬間でもあった。牝馬クラシック第2弾「オークス」は7着に沈んだが、本質がマイラー(1600m前後を得意とする馬)のニシノフラワーにとって、長距離の2400mは過酷な距離だった。それでも同距離で行われた秋のエリザベス女王杯は3着に入っている。
1992年の最終戦として出走したのがスプリンターズSだった。牡馬の強豪スプリンターが集まる短距離王決定戦である。まだ3歳馬で、もっぱら牝馬限定戦を戦ってきたニシノフラワーには荷が重いと思われたが、後方待機策から並み居る強豪を次々と抜き去り、GI3勝目を挙げた。
前年の最優秀2歳牝馬とともに、この勝利で最優秀4歳牝馬(現3歳)、最優秀スプリンターと3つの勲章を手にしたニシノフラワー。低迷が続いていた西山牧場に突如として誕生したこのヒロインは、まさにジャンヌ・ダルクのような存在であった。短距離女王ニシノフラワーの名は、永遠に歴史から消え去ることはないだろう。(吉沢譲治)
◆レース詳細
1992年12月20日
第26回 スプリンターズS(GI) 中山/芝右 1200m/天候:曇/芝:良
1着 ニシノフラワー 牝4 53 河内洋 2着 ヤマニンゼファー 牡5 57 田中勝春 3着 ナルシスノワール 牡7 57 西浦勝一
1着 ニシノフラワー 牝4 53 河内洋
2着 ヤマニンゼファー 牡5 57 田中勝春
3着 ナルシスノワール 牡7 57 西浦勝一
◆競走馬のプロフィール
父:Majestic Light
母:デユプリシト
騎 手:河内洋
調教師:松田正弘(栗東)
馬 主:西山正行
生産牧場:西山牧場
※年齢は当時の旧年齢表記
■1992年 スプリンターズS
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