2023年10月18日(水) 18:00
微笑みながら人に寄り添うマイティドリーム(提供:マイティドリームの会)
マイティドリームは鹿児島のホーストラストで新しい馬生を歩み出した。当初、マイティドリームを支援していたのは11名だった。その有志の人々の温かい思いによって、彼の穏やかな日々は支えられていた。
だがある日、悲しい知らせが届いた。2022年10月に、Hさんが病によって天に召されたのだ。マイティドリームの余生を切望し、多くの人々の心を動かしてきたHさんは、マイティドリームをサポートする人々にとっても大きな存在だった。
マイティのサポーターのKさんは、親しかったHさんとマイティドリームの思い出を教えてくれた。
「Hさんさんとよくタカラハニーに会いに行ったのですけど、その時にマイティドリームをとても可愛がっていました。(Hさんが)大好きだったディープインパクトにマイティがよく似ていると嬉しそうに言っていましたね。確かマイティのために馬着も用意したと聞きました」
Kさんの逸話からも、Hさんのマイティドリームへの思いの深さの一端が伝わってきた。
そんなHさんに天国からマイティドリームのこれからを安心して見守っていほしいと、皆の気持ちは同じだった。
乗馬クラブ時代のマイティドリームとHさん(提供:Mさん)
しかし昨今の原材料価格の上昇を受け、ホーストラストの預託料も値上げをした。ホーストラストは健康状態に問題がなければ基本的に昼夜放牧なのだが、マイティドリームの場合は旋回癖で蹄の状態が良くないため、馬房を使用しサプリメントも投与しているので、さらに費用が嵩む。
Hさんが亡くなり10人でマイティドリームを支えていたのだが、正直この人数ではギリギリだった。マイティドリームが生き続ける限り、鹿児島の地で穏やかに過ごしてほしい。そのためにはどうしたらいいのか。有志のメンバーで意見を交換するなど幾度となく話し合った。その結果、認定NPO法人引退馬協会の事業の1つである引退馬ネットのサポート団体として「マイティドリームの会」が設立され、彼の生涯をともに見守ってくれるサポーターを対外的に募ることになった。
会の発起人代表はAさんが務めることになった。Aさんは当初、大好きなゴールドシップを応援し、競馬を楽しんでいた。だが競馬を引退した後の馬たちの厳しい現実を知り、葛藤が始まる。人間のために命をかけて走っている競走馬たちが、競馬を引退した後の命の保証がないことにAさんは胸を痛めていた。Aさんは引退馬への思いを行動に移した。引退馬支援に関心を持つ馬仲間と繋がりを持ち、自ら地方競馬で走っていた馬を2頭引き取り、精一杯の愛情を注いでいるのだ。
馬仲間の1人がYさんだった。彼女のショウナンマイティへの思いや弟のマイティドリームについても、AさんとYさんは何度も語り合った。Hさんやタカラハニーの会のMさんとも繋がっていた。タカラハニーのいる乗馬クラブでHさんが偶然マイティドリームを見つけ、感激と安堵のあまり泣き崩れたことも伝え聞いていた。Hさんは亡くなったが、支援してきた人々皆からマイティドリームへの「熱い気持ち」を感じていたため、Aさんが発起人代表にと打診があった時には、本当に自分でいいのかとも思った。
だがマイティドリームに会って気持ちが固まった。
Aさんが乗馬クラブを訪ねた時に、マイティドリームは馬房にいた。馬房の中は本来、安心して過ごせる場所のはずだ。だが馬房の中で旋回する癖のあるマイティドリームは、馬房で安心してくつろぐことができているのだろうか? とAさんは考えた。
「馬房にいるマイティはどこを見てるんやろ、何を思ってるんやろうと私なりにマイティの気持ちに思いを馳せているうちに、マイティに合った次の居場所を早く見つけてあげたいと思いました」
馬房の中のマイティドリームに他の景色を見せてあげたい、馬房から解き放って自由にさせてあげたい。マイティの瞳を見てAさんはそう感じたのではないかと想像する。
皆の思いを受け穏やかに過ごすマイティドリーム(提供:マイティドリームの会)
マイティドリームのために、そして彼のサポートをしている人たちの熱い思いを繋がせてもらいたいと考え、Aさんは発起人代表になったのだった。
Yさんも今は会の副代表として、マイティドリームのために事務やSNS関係を引き受けて張り切っている。「特別なことがなくてもいいのです。ただ馬らしく穏やかに、1日でも長く過ごしていてほしい。それが願いです」(Yさん)
マイティドリームは群れにも慣れてきて、友達もできた。他の馬とグルーミングし合ったり、群れの中でも眠たそうにしている姿が見られるようになった。表情も和らぎ、ホーストラストでの生活を楽しんでいるようだ。
これから先も天国のHさんも含めたくさんのサポーターの支援を受け、穏やかな余生が続くに違いない。
(了)
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佐々木祥恵
北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。
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