2024年03月12日(火) 18:00
ホースメッセでグルーミング講習の講師を務めた渡部貴文さん(提供:一般社団法人Happy Horse Creators)
現役のJRA厩務員の渡部貴文さんが主催するYouTubeチャンネル「おさむとなべ Next Challenge!!」で公開されているのが「厩務員への道」という厩務員を目指す女性のドキュメンタリーだ。一度は看護師の仕事についたものの、幼い頃から憧れていた馬に携わる競走馬の厩務員になるべく、滋賀県にある湖南馬事センターの馬育成騎乗者養成のスクールに入学した。
忙しい合間を縫って渡部さんは滋賀県まで赴き取材を行い、現在までにスクールの教官へのインタビューを含めて3本の動画が公開されているのだが、馬を知っている人目線での取材なので、実際に馬に触れたことのない素人には気づかないポイントも押さえられていると感じた。
また彼女の担当馬として2015年のAJCC(GII)の勝ち馬のクリールカイザーも登場している。こうして競走馬を引退してからも馬の世界を目指す人たちの先生として活躍する元気な姿を見られるのも嬉しい限りだ。
公開されている動画は、今後馬の世界を目指す人にとって参考になるのはもちろんのこと、馬関係の仕事に興味を持つ人を増やすきっかけにもなりそうだ。
◆おさむとなべ Next Challenge「厩務員への道」
前回も少し触れたが、渡部さんは2月10日〜12日までJRA馬事公苑で開催されたホースメッセにおいて、ホースボールという競技のデモンストレーションに出場した馬を使用してのグルーミング講習と、名伯楽・藤沢和雄元調教師とのトークイベントに登壇した。
渡部さんが応援する日本ホースボール協会のデモンストレーション(提供:一般社団法人Happy Horse Creators)
競馬場のパドックに登場する現役の競走馬たちの毛艶はピカピカに輝いている。これは厩舎における日頃の飼養管理や担当厩務員による手入れ(グルーミング)をはじめとするケアによるものが大きい。手入れは単に馬を美しく清潔に保つだけではなく、全身くまなくチェックすることにより、異常をいち早く発見する重要なツールでもある。
乗ることも大事だが、馬を清潔にし、ケガなど異常を早く発見するスキルを人間側が身につけることができれば、競走馬を引退後の乗馬としての馬生もより長く健康に続けられる可能性が高くなる。それだけに渡部さんのように日頃から緻密に馬のケアを行う競走馬の厩務員がグルーミング講習を行うことは、大きな意味があると感じた。
藤沢元調教師とのトークイベント『HappyなHorseのつくりかた』はおよそ160人の聴衆を集めた。渡部さん曰く、「相変わらずの藤沢節が観覧者を惹きつけてさすがだなと思いました」
笑顔でユーモアを交えながらも語る言葉の1つ1つに意味や含みがあり、奥が深い。そして「誰も傷つかないよう、波風が立たないように考えて発言をされている」とそばで聞いていて思ったという。
管理馬たちの調教を調教師席のあるスタンドの2階からではなく、なぜスタンド1階の外から見ていたのかについての話題も出た。理由はスタンドの屋根が集音器の役目を果たし、音がよく聞こえるため、馬の息遣いや(馬の駆ける蹄音から)馬場の硬さなどがよくわかるからだそうだ。渡部さんは言う。
「藤沢先生の観察眼は素晴らしいです。厩務員は担当馬2頭だけですが、先生はトレセンに入厩している管理馬28頭すべてを観察して把握して判断する。凄いと思っていました」
藤沢和雄元調教師とのトークイベント(提供:一般社団法人Happy Horse Creators)
つまり目で見た馬の様子や耳に入ってくる音など、馬が発したあらゆる情報から馬を理解する力が抜きん出ていたからこそ、全盛期は他を寄せ付けない成績を収めたのではないだろうか。と同時に、このように馬を理解しようとする人が、競走馬だけではなく、乗馬や繁殖、引退馬などあらゆるステージの馬たちがハッピーに過ごすために必要なのではないかとも思った。
観覧者からもたくさんの質問が藤沢元調教師に対して寄せられ、「馬の業界にはまだまだ必要とされている存在だと実感しました」と渡部さんは話す。
YouTubeやイベントなどを通して、馬たちや馬に関わる人たちが幸せになることを目指して、藤沢元調教師の協力のもと活動の幅を広げていく渡部さんに今後も目が離せない。
(了)
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佐々木祥恵
北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。
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