2024年10月28日(月) 18:00
単勝オッズ3.8倍(2番人気)のドウデュースが優勝(撮影:下野雄規)
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
AIマスターM(以下、M) 先週は天皇賞(秋)が行われ、単勝オッズ3.8倍(2番人気)のドウデュースが優勝を果たしました。
伊吹 あえてくだけた言い方をしますが、めちゃめちゃカッコ良かったですね。スタート直後の先行争いには加わらず、2コーナーを14番手で通過。前の13頭からも、後ろのニシノレヴナント(10着)からもやや離れたポジションでしたから、おそらくドウデュースはストレスを感じることなく追走できていたのではないでしょうか。ハナを切ったホウオウビスケッツ(3着)が1000m通過59秒9のペースでレースを引っ張る中、4コーナーから少しずつ前との差を詰め始めると、ゴール前の直線入り口では躊躇いなく大外の進路を選択。残り400m地点のあたりでもまだ後方にいたのですが、残り200m地点を過ぎたところで一気に先行勢を捕らえにかかり、逃げ粘るホウオウビスケッツ、先団から伸びたタスティエーラ(2着)を決勝線の手前で並ぶ間もなくかわし切りました。上がり3ハロンタイムは32秒5で、2位タイのジャスティンパレス(4着)、ニシノレヴナントを0秒5も上回る断然のトップ。コンディション等を含めると、単純に今回はドウデュースが頭ひとつ抜けた存在だった――と言って良いかもしれません。
M 鞍上の武豊騎手は、ドウデュースで勝った昨年の有馬記念以来となるJRAGI制覇。ボンドガールとタッグを組んだ2週前の秋華賞で2着に、アドマイヤテラとタッグを組んだ先週の菊花賞で3着に食い込むなど、絶好調ですね。
伊吹 先週に関して言うと、菊花賞で善戦しただけでなく、土日で計6勝をマークしていますからね。前回の当コラムで「40代半ばなのにまったく勢いの衰えないC.ルメール騎手は凄い」という趣旨の話をしましたが、武豊騎手は1969年3月15日生まれの55歳で、C.ルメール騎手や私の10個上。もう本当に、お見事と言うほかありません。千両役者らしいスマートな勝ちっぷりもさすが。馬券的には反省材料ばかりの一戦となってしまったものの、正直なところレースの直後は「素晴らしい光景を観ることができて良かった……」という気持ちで胸がいっぱいになっていました。おそらくですが、私と同世代以上、かつ馬券が当たらなかったファンの大半は、多かれ少なかれ同じような感情を抱いていたのではないでしょうか。そのくらい、武豊騎手というのは特別なジョッキーですから。
M ドウデュースは自身4度目のGI初制覇。今年いっぱいでの引退を表明しており、おそらく次走はジャパンCになるのではないかと思われます。
伊吹 netkeibaのXアカウントによるポストを見るまで気付かなかったのですが、2歳から5歳までの4年連続でJRAGIを勝ったのは、メジロドーベル・ウオッカ・ブエナビスタに続く史上4頭目、牡馬としては史上初の快挙。昨今の歴史的名馬とは様相の異なるユニークな競走生活を送っていますし、同様の記録を達成する牡馬がまたすぐに現れるとはとても思えません。馬券上の扱いはその都度考えるとして、この後もドウデュースの晩年を1レースずつじっくり味わっていきましょう。
M 今週の日曜東京メインレースは、個性的なメンバーが集うこの時期の名物重賞、アルゼンチン共和国杯。昨年は単勝オッズ2.4倍(1番人気)のゼッフィーロが優勝を果たしました。なお、その2023年は単勝オッズ11.8倍(5番人気)のマイネルウィルトスが2着となったうえ、単勝オッズ5.2倍(2番人気)のチャックネイトと単勝オッズ11.6倍(4番人気)のヒートオンビートが3着同着。2通りの組番が的中となった3連単の配当は、3650円と5600円です。
伊吹 過去10年の単勝人気順別成績を見ると、単勝7番人気以下だったにもかかわらず3着以内となった馬はわずか3頭。ハンデキャップ競走ではあるものの、堅く収まりがちなレースと見ておいた方が良いかもしれませんね。
M 単勝1番人気馬も、単勝2番人気から単勝3番人気の馬も、3着内率はそれぞれ6割。単勝1番人気馬としては水準並みですが、単勝2番人気馬や単勝3番人気馬がマークした3着内率としては、まずまず優秀な数字と言えるのではないでしょうか。
伊吹 ちなみに、単勝7番人気から単勝11番人気の馬は2014年以降[0-1-2-47](3着内率6.0%)、単勝12番人気以下の馬は2014年以降[0-0-0-51](3着内率0.0%)でした。仮に人気薄の伏兵を狙うとしても、相手には上位人気グループの各馬を選んだ方が良いと思います。
M そんなアルゼンチン共和国杯でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、ショウナンバシットです。
伊吹 面白いところを挙げてきましたね。おそらく上位人気グループの一角を占めることになると思いますが、断然の人気ということはなさそう。
M ショウナンバシットは4歳馬。3歳時の若葉Sを制した後はしばらく馬券に絡めていなかったものの、2走前の札幌日経OPと前走のタイランドCを連勝しています。まだ重賞で馬券に絡んだ実績がないとはいえ、積極的に狙いたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
伊吹 長距離適性が高いうえ、3歳時の皐月賞でも5着に食い込んでいる馬ですからね。Aiエスケープが有力視していることを踏まえつつ、好走馬の傾向とこの馬のプロフィールを見比べていきたいと思います。
M 真っ先にチェックしておくべきポイントはどのあたりでしょう?
伊吹 基本的には、格の高いレースで善戦してきた差し馬が中心。2019年以降の3着以内馬延べ16頭中10頭は、前年以降にJRAの平地GIかGIIで“着順が6着以内、かつ上がり3ハロンタイム順位が2位以内”となった経験のある馬でした。
M GIIIやオープン特別、条件クラスのレースを主戦場としてきた馬、そして先行力の高さを活かしたいタイプは、疑ってかかった方が良いかもしれませんね。
伊吹 ただし“前年以降の、JRAの、GI・GIIのレース”において“着順が6着以内、かつ上がり3ハロンタイム順位が2位以内”となった経験がない、かつ前走の着順が1着だった馬は2019年以降[1-1-3-6](3着内率45.5%)と堅実。直近のレースを勝ち切っている馬なら、実績面に多少の不安があっても嫌う必要はなさそうです。
M 先程も触れた通り、ショウナンバシットは2連勝中。「格の高いレースで善戦してきた差し馬」とは言えないものの、勢いに乗っている点は高く評価して良いのではないかと思います。
伊吹 あとは脚質も明暗を分けそうなファクターのひとつ。同じく2019年以降の3着以内馬延べ16頭中13頭は、前走の4コーナー通過順が3番手から7番手でした。
M 極端な競馬をした直後の馬は過信禁物、と。
伊吹 先程おっしゃっていた「先行力の高さを活かしたいタイプ」はもちろん、極端に先行力が低い馬も、思い切って評価を下げるべきでしょう。
M ショウナンバシットは前走の4コーナー通過順が2番手。残念ながら、この条件はクリアできていません。
伊吹 さらに、同じく2019年以降の3着以内馬延べ16頭中15頭は、父がディープインパクト系以外の種牡馬でした。
M なるほど。父にディープインパクト系種牡馬を持つ馬は安定感を欠いていますね。
伊吹 3着以内に好走を果たしたディープインパクト系種牡馬の産駒は、2023年1着のゼッフィーロのみ。今年の該当馬も割り引きが必要です。
M ショウナンバシットの父はディープインパクト系に属するシルバーステート。レースの傾向からは少々強調しづらい一頭――ということになるのでしょうか。
伊吹 正直なところ、私は無印にするつもりでした。もっとも、まだまだ伸びしろがありそうな馬ですし、他ならぬAiエスケープが有力と見ているわけですから、チャンス自体は十分にあるはず。少なくとも、押さえておくに越したことはないと思います。
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伊吹雅也
競馬評論家。JRAの公式ホームページ内「今週の注目レース」にて“データ分析”のコーナーを、TCK(東京シティ競馬)の公式ホームページ内「分析レポート」にて重賞競走のデータ分析を担当しているほか、グリーンチャンネル、JRAのレーシングプログラム、『週刊アサヒ芸能』、『競馬王』などさまざまなメディアを舞台に活動している。主な著作に『WIN5攻略全書 回収率150%超!“ミスターWIN5”のマインドセット』、『コース別 本当に儲かる騎手大全』シリーズ、『コース別 本当に儲かる血統大全』シリーズ、『ウルトラ回収率』シリーズ(いずれもガイドワークス)など。
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