フジテレビと競馬

2025年01月23日(木) 12:00

 先週水曜日に大腿骨への人工骨頭挿入手術を受けた家人は、入院しながらリハビリをつづけている。

 術後のレントゲン写真を見てたまげたのだが、ゴルフボールくらいの大きさの人工骨頭から20センチほどの氷柱(つらら)のようなものが伸びており、それが大腿骨上部に突き刺さっている。医学の進歩というのは凄まじいもので、そんなものが入っていても人間というのは生きられるものかと思った。

 先週、ここに家人の骨折について記してから、SNSなどを通じて、たくさんの人たちが温かい見舞いの言葉を送ってくれた。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

 さて、今、フジテレビが厄介な問題を抱えている。

 タレントの女性トラブルが発端となり、多くのスポンサーがCMを差し止めるに至り、JRAもそうしたスポンサーのひとつとなっている。

 CMがACジャパンに差し替えられてもフジテレビに広告料は入ってくるらしいので、当面、経営が危うくなることはないだろう。上層部は、嵐が去るのを待てばまた元に戻ると考えているのかもしれないが、スポンサーが本当に撤収しはじめると、そう呑気に構えているわけにはいかなくなる。

 競馬ファンとして気になるのは日曜日の「みんなのKEIBA」がどうなるかだが、これはCMに切り替わるときなど「主催は日本中央競馬会」ですとアナウンスされているように、通常のスポンサーによる提供とは異なる。であるから、JRAが「やーめた」と言うか、フジテレビがなくならない限りつづくだろう。

 それでも、いつか、フジテレビから競馬番組がなくなる日が来るのだろうか。それは、JRAが他局に乗り替えるときなのか。あるいは、フジテレビがなくなってしまうときなのか。

 SNSなどでは、「総務省はフジテレビを電波停止にすべきだ」といった声も多く見受けられる。何か問題が起きると、当事者がそれを修正したり、世間に謝罪したりする前に、「とにかく潰せ」という声が上がりやすい風潮になったのは、前にも書いた「キャンセルカルチャー」というやつだ。気に入らないものは即消えるべきだ、と直情的に思い、声高に訴える人が多くなったのは、文字通り、指先ひとつで対象を消去できる眼前のネットの世界のほうが、ほかの多くの人の思いや利害も絡む現実世界より重要というか、上位に感じている人が多くなったからなのか。

 さっき、どれだけのCMがACジャパンに差し替えられているか確かめるためフジテレビのニュースを見たら、覚醒剤か何かで捕まった男が、「自分の見ている世界が現実なのか、本当なのかわからなくなった」と供述しているという。「現実」なのか「本当」なのかわからなくても別に構わないのではないかと思ったが、どうやら私が「妄想」を「本当」と聞き違えたようだ。

 そう簡単にひとつのキー局がなくなることはないと思うが、弱体化は避けられないかもしれない。

 私が競馬を覚えたのは、1980年代後半にフジテレビの報道番組の構成・リサーチスタッフとして働いていたときだし、初めて美浦トレセンを取材したのも、その番組のスタッフとしてだった。フジテレビが新宿区河田町にあったころだ。

 今、なくなることはないと思うと書いたばかりだが、戦後初の日本馬による海外遠征としてハクチカラと保田隆芳騎手(当時)がレースに臨んだアメリカ西海岸のハリウッドパーク競馬場も、私が1990年に初めて訪ねた海外の競馬場である、シカゴ近くのアーリントン国際競馬場(当時の名称)も、目の前でシャドウゲイトとコスモバルクのワンツーを見たシンガポールのクランジ競馬場も閉場してしまった。

 なくなることなど想像もしなかったものがなくなることは、本当に起こり得るのだ。

 不買運動ではないが、あんなことをやるテレビ局の番組は見たくないという嫌悪感はしばらく残るだろう。多くの競馬ファンが相次ぐ騎手のスマホ問題によって馬券の購買意欲が削がれた、というのに似ていなくもない。

 どちらも、あまり軽視していると、本当に痛い目に遭う恐れがあるのではないか。

 このところ、自宅兼事務所の玄関に積まれたダンボールに入った長芋とゴボウとサツマイモばかり食べている。全部いただきものだ。さあ、今夜も根菜で腹を満たそう。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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