東北取材旅行と一代の女傑

2025年05月22日(木) 12:00

 今週土曜日から来週月曜日にかけて、福島県南相馬市で相馬野馬追の取材をする。去年から人馬の熱射病対策で5月最後の土、日、月の開催と2カ月前倒しになった。日本ダービーと重なってしまうので、去年は金曜日の歴代相馬藩候墓前祭と土曜日の宵祭りだけを取材して帰ってきたが、今年は日本ダービーが6月1日になったので、2年ぶりに日曜日の本祭りと月曜日の野馬懸を見ることができる。

 そのまま青森へドライブし、火曜日は八戸出身の最年少ダービージョッキー・前田長吉の墓参りがてら、長吉の兄の孫の前田貞直さんに会う。水曜日は三沢で、日本初の民営洋式牧場「廣澤牧場」をつくった廣澤安任の墓参りをし、生産者の織笠時男さんに会ってから、三沢市先人記念館で企画展「廣澤牧場の歩み」を見る。そのあと、寺山修司記念館を訪ねる予定になっている。

 都内の仕事場から南相馬の雲雀ヶ原祭場地まで約290km。雲雀ヶ原祭場地から八戸の前田長吉の生家まで約380km。要は、東京から南相馬まで行くと、八戸までの道のりの43%ほどを消化したことになるので、せっかくなら足を伸ばそう、と考えた。このコースでドライブするのは、2014、16、17、22、23年に次ぐ6回目となる。

 東北自動車道の岩手北部でスピード違反で捕まったのは16年だったか。あのころは介護帰省で北海道に行くことも多く、そっちでも違反して点数オーバーになっていたので鮫洲の運転試験場で講習を受けた。おまけに、免停との交換条件だったと思うのだが、社会奉仕活動として交通安全のティッシュ配りをした。一緒にティッシュを配った人のなかにタクシーのベテラン運転手がいた。その人は、時間帯によって一方通行の向きが切り替わる道で客を降ろそうとしたとき、小銭がなかったんだか、途中からカード払いにしたいと客が言い出したんだか忘れたが、ともかく降りるまでえらく時間がかかった。その間に一方通行の向きが逆になってしまい、バックで出ようとしたら、路上駐車の車が邪魔だったか何かで(これも詳細は忘れた)、ちょっと前に進んだら捕まったのだという。理不尽だが、それだけでは点数オーバーにはならないので、ほかにもやらかしていたのだろう。

 さて、本稿がアップされる5月22日、スポーツ誌「Number」の日本ダービー特集号が発売される。私は“メジロ牧場「メジロの夢はついに届かず」”と“エフフォーリア「ゴールの瞬間だけ、分が悪かった」”の2本を書いた。

 今回の特集は、あと一歩で日本ダービーのタイトルに手が届かなかった人馬の「見果てぬ夢」にスポットを当てたものだ。

 メジロの原稿を書くために、メジロ牧場解散時に専務で、レイクヴィラファーム開場時に代表となり、現在は相談役をつとめる岩崎伸道さんに話を聞いた。息子で、現代表の岩崎義久さんにも会うことができた。

 詳しくは本誌を見ていただくとして、嬉しかったのは、岩崎伸道さんの強い「メジロ愛」を感じられたことだ。この人がつないだ人馬なら、また大舞台で「メジロの血」が蘇るだろう、と思った。

 岩崎さんも、義久さんも言っていたのは、レイクヴィラファームのあるところは豪雪地帯で、おそらく日本のサラブレッド生産牧場で一番積雪の多い牧場だということだ。

 前述した南相馬にしても、八戸、三沢にしても、それから日高の馬産地にしても、太平洋側で馬の生産や飼育が盛んに行われるのは雪が少ないからだと私は思い込んでおり、地図上ではレイクヴィラファームもそんなに内陸に入ったように見えなかったので、意外だった。

 そしてもうひとつ。5月23日発売の「優駿」6月号から、実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」の連載が始まる。

 1961年の日本ダービーで「髪の毛一本の差」と言われた2着に惜敗したメジロオー、天皇賞馬メジロムサシ、菊花賞馬ホリスキーなどを生産した栃木の鍋掛牧場を創設した沖崎エイさんを主人公とした物語だ。

 日本のスポーツライターの走りとして知られる虫明亜呂無は、「優駿」1983年2月号にこう書いている。

<ひとことでいえば、沖崎エイさんは、一代の女傑である。沖崎エイさんの一生を書き記せば、それだけで、大正から昭和の日本女性史の側面が脚光をあびることになるかもしれない>

 この文章が胸に刺さり、孫の沖崎誠一郎さんをはじめとする関係者に取材を進めながらこれしかないと思い、「一代の女傑」というタイトルにした。先に言うべきだったのかもしれないが、著者は私である。

 明治32年に生まれ、平成元年に世を去った沖崎エイさんは、とても綺麗な人だったが、激しい性格の持ち主だった。エピソードには事欠かない。前出の岩崎伸道さんもそう言って苦笑していた。

 相馬野馬追の日の空模様が気になり、南相馬の天気予報をしょっちゅう見ている。日曜日と月曜日に傘マークがある。マークが小さくなるか、消えてくれないものか。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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