高額落札馬のその後

2025年07月17日(木) 12:00

 7月14日(月)と15日(火)に行われた「セレクトセール2025」は、2日間の落札総額が327億円(税込み)と、過去最高だった昨年の289億1800万円(税込み)を大きく上回る大盛況だった。1億円超えは昨年の64頭から86頭に。2億円超えは24頭から30頭へと増えた。当歳セッションでイクイノックスの初年度産駒が5億8000万円(税込み)で落札されたり、キタサンブラックの半弟やウシュバテソーロの全弟も登場したりと、話題に富んだセールだった。

 セール直後は、話題になった高額落札馬を覚えておこうと思うのだが、どうしても忘れてしまう。

 そこで、高額で落札されて話題になった馬が、その後どのくらい活躍しているのかを見ていきたい。現3歳から5歳世代のセレクトセール高額落札馬トップ3と、2億円以上で落札された馬のなかから、重賞を勝つなど目立った活躍をしている馬をピックアップした。

 落札額は税抜きで、矢印の先に記したのが競走馬名。戦績の次のカッコ内は獲得賞金(中央)で、その次は主な勝ち鞍など。成績は先週終了時のものである。

■セレクトセール2023(1歳部門=現3歳)
1位 インクルードベティの2022(牡、父キタサンブラック)3億1000万円
→ダノンシーマ(栗東・中内田充正厩舎)5戦2勝(2697万円)

1位 パレスルーマーの2022(牡、父シルバーステート)3億1000万円
→キングノジョー(美浦・田中博康厩舎)4戦2勝(2140万円)

3位 コスモポリタンクイーンの2022(牡、父Kingman)3億円
→スターウェーブ(美浦・武井亮厩舎)4戦1勝(840万円)

 8位の2億1000万円で落札されたエリキング(牡、栗東・中内田充正厩舎)は5戦3勝。主な勝ち鞍に京都2歳Sがある。獲得賞金は8662万円。

■セレクトセール2022(当歳部門=現3歳)
1位 シャンパンエニワンの2022(牡、父ドゥラメンテ)3億2000万円
→ジュタ(栗東・矢作芳人厩舎)5戦2勝(3841万円)若駒S

2位 アウェイクの2022(牡、父ブリックスアンドモルタル)3億1000万円
→ショウナンバルドル(栗東・須貝尚介厩舎)3戦1勝(720万円)

3位 ラルケットの2022(牡、父サートゥルナーリア)3億円
→ジェゼロ(栗東・須貝尚介厩舎)3戦1勝(1164万円)

3位 モシーンの2022(牡、父エピファネイア)3億円
→コジオスコ(栗東・武幸四郎厩舎)3戦0勝(400万円)

■セレクトセール2022(1歳部門=現4歳)
1位 モシーンの2021(牡、父モーリス)4億5000万円
→ダノンエアズロック(美浦・堀宣行厩舎)9戦3勝(4702万円)プリンシパルS

2位 ジェイウォークの2021(牡、父ドゥラメンテ)3億円
→ストーンズ(栗東・友道康夫厩舎)8戦1勝(1840万円)

3位 アウェイクの2021(牡、父エピファネイア)2億5000万円
→インビジブルセルフ(栗東・池江泰寿厩舎)2戦2勝(1520万円)

 4位タイの2億2000万円で落札されたダノンマッキンリー(牡、栗東・藤原英昭厩舎)は13戦4勝で、ファルコンS、スワンSなどを勝っている。獲得賞金は1億2840万円。

 7位の2億1000万円で落札されたボンドガール(牝、美浦・手塚貴久厩舎)は10戦1勝だが、秋華賞を含め重賞で2着が5回あり、獲得賞金は1億3746万円。

■セレクトセール2021(当歳部門=現4歳)
1位 セルキスの2021(牡、父キズナ)4億1000万円
→ホウオウプロサンゲ(栗東・矢作芳人厩舎)15戦4勝(6905万円)

2位 ヤンキーローズの2021(牡、父ロードカナロア)3億7000万円
→ダノンモンブラン(栗東・中内田充正厩舎)3戦0勝(0万円)

3位 ラヴズオンリーミーの2021(牡、父ハーツクライ)2億8000万円
→グラヴィス(栗東・矢作芳人厩舎)18戦2勝(3143万円)

■セレクトセール2021(1歳部門=現5歳)
1位 ゴーマギーゴーの2020(牡、父ディープインパクト)3億円
→オープンファイア(栗東・池江泰寿厩舎)10戦1勝(3021万円)

1位 ファイネストシティの2020(牡、父ロードカナロア)3億円
→リプレゼント(美浦・高柳瑞樹厩舎)15戦3勝(1040万円)

3位 ギエムの2020(牡、父シルバーステート)2億6000万円
→ショウナンバシット(栗東・須貝尚介厩舎)19戦5勝(1億1979万円)若葉S

■セレクトセール2020(当歳部門=現5歳)
1位 ヒルダズパッションの2020(牡、父ハーツクライ)3億8000万円
→ホウオウリュウセイ 未出走

2位 シーズアタイガーの2020(牡、父ハーツクライ)2億7000万円
→ダノンザタイガー(美浦・国枝栄厩舎)8戦1勝(4529万円)

3位 シーヴの2020(牡、父ハーツクライ)2億1000万円
→ムジェロ(藤原英昭厩舎)17戦2勝(3121万円)

 特に3歳馬はまだ結果が出たとは言えないが、2億円を超える高額馬のその後は総じて厳しいようだ。が、これだけの投資をして、そのなかからエリキングやダノンマッキンリー、ボンドガール、ショウナンバシットのように大舞台で楽しませてくれる馬が出てくれればそれでいい、というふうに感じる富裕層もいるのだろう。

 2億円の馬を買えるようなオーナーは、その1頭の競走成績だけにとらわれているわけではないだろうし、ここまで高くなったのは、競っているときの意地のぶつかり合いの結果、という部分もあるだろう。

「夢の値段」として適当なのかどうかは、庶民の感覚からは高すぎてよくわからない。が、1億円の馬が10億円稼ぐより、5億円の馬が10億円稼いだほうが、手の届かないところでの、スーパーエリートによる到達点という感じがより強くなり、いかにも競馬らしくていいのかもしれない。

 来週は1泊、再来週は2泊で北海道に行く。飛行機も、介護帰省を繰り返していたころに比べるとずいぶん高くなった。セレクトセールの話をしていると金銭感覚がおかしくなってしまうが、我がことに思いが及ぶと、5000円や1万円の価値を思い出す。

 あまりこういうことを言うと嫌がられるのでときどきにしておくが、「我がこと」を「自分ごと」と言う人が増えている。私はしかし、そんな日本語はない、と思っている。目にしたり耳にしたりすると気が滅入るので、どうかやめてほしい。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

関連情報

新着コラム

コラムを探す