2025年07月24日(木) 12:00
7月20日に行われた参議院選挙で、「日本人ファースト」をスローガンに掲げる参政党が改選1議席から14議席へと躍進した。
「日本人ファースト」も、ヨーロッパで勢力を拡大する右派政党が打ち出す排外主義も、そしてアメリカのトランプ大統領がよく口にする「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」も、「反グローバリズム」という点で共通している。
競馬は、30年以上前にアメリカから輸入された種牡馬の父系につらなる種牡馬を、アイルランドから輸入した牝馬に付け、日本で生まれた仔馬を国内でデビューさせ、フランス人騎手を乗せてドバイや香港のレースで走らせる――といったように、当たり前にグローバリズムを前提としている。
しかし、競馬の運営面においては、かなりしっかりした「日本人ファースト」が貫かれている。JRAの外国人職員には会ったことがないし(私が知らないだけかもしれないが)、調教師にも調教助手にも厩務員にも外国人はいない。
騎手だけは別である。かつて、ロバート・アイアノッティが1955年、ミカエル・ベネジアが1974年に免許を取得し騎乗した。2人ともアメリカ人だ。その後は、1981年に創設されたジャパンCや、1987年から始まったワールドスーパージョッキーズシリーズなどのような騎手招待レースで外国人が乗った。そして1994年から短期免許が交付されるようになり、2015年、ミルコ・デムーロ騎手とクリストフ・ルメール騎手が通年免許を取得した。
馬主は、2009年から日本に居住していない外国人も認可されるようになった。
地方競馬では、2018年から外国人厩務員が採用されるようになり、インド人をはじめとする外国人がパドックで馬を曳くシーンが珍しくなくなっている。
彼らは「技能」の在留資格で働いているので、在留期間は最長でも5年だ。ということは、ちょうど今頃から、在留期間の更新をする人が増えてくるのだろう。
彼らのなかで特に優秀な人材が調教師になりたい、と言ったら、主催者はどう対応するのか。
今、JRAの「2025年度 調教師及び騎手免許試験要領」と、地方競馬全国協会の「調教師・騎手免許試験関係公示」の調教師の受験資格を見たら、受験者が外国人である場合の条件などが示されている。
ミルコ・デムーロ騎手は、当サイトのコラムで、JRAの調教師試験がすべて日本語で行われることから、「調教師への扉は完全に閉まった」と話している。それはつまり、門戸は広くひろげられており、日本語の試験さえクリアできれば可能性はある、ということだ。
そう遠くない未来に、外国人の「センセイ」が登場するのだろうか。
昔から、競馬サークルで調教師は「先生」と呼ばれている。が、私の知る限りでは、JRAの職員が調教師を「先生」と呼ぶのを聞いたことがない。自分たちが免許を与えている相手をそう呼ぶのはおかしいし、対等な関係を築けないからと、意志統一をしているのだろうか。
なぜ調教師が「先生」なのかというと、かつては騎手の卵を調教師の自宅や厩舎に住まわせる徒弟制度で育て、馬の扱いだけではなく、読み書きから礼儀作法まで教え込む人間教育の「先生」が調教師だったからだ。
もちろん、今の時代でも「先生」という敬称に相応しい人もいる。
誤解のないよう申し添えると、私が何人かの調教師を「先生」ではなく「さん」付けで呼んでいるのは、彼らが「先生」に相応しくないと思っているわけではなく、騎手時代や調教助手時代からの知り合いで、それを急に「先生」と呼ぶのは変だし、嫌らしいように感じているからだ。
騎手界の「日本人ファースト」を取り戻すことができるのか、ということについて書くつもりだったのが、ずいぶん違う話になってしまった。
言わずもがなかもしれないが、外国人を排斥するという意味ではなく、外国人がいるなかで圧倒的な成績を残す日本人騎手(たち)が現れるか、という意味の「日本人ファースト」だ。
アメリカで活躍している木村和士騎手のように、徒弟制度や管理競馬ではないところで羽ばたく日本人騎手もいる。
競馬学校の辞め方などに問題があったのか、木村騎手について日本ではあまり報じられていないが、誰もできなかったことをしていることは確かなのだから、たいしたものだと思う。
明日から北海道に行く。向こうも暑そうで頭が痛い。
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。 関連サイト:島田明宏Web事務所
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