スポーツ紙購読をやめた理由

2025年07月31日(木) 12:00

 学生時代、ひとり暮らしを始めたときからずっと新聞を購読している。1990年代からは一般紙に加え、スポーツ紙も1紙購読するようになった。最初はレイアウトの見やすいN紙、次は競馬面が充実しているS紙、その次は「我が軍」こと読売巨人軍に関するニュースが多いH紙を取ってきた。が、今月限りでそのスポーツ紙の購読をやめることにした。

 購読をやめた一番の理由は、紙面に出ているのとほぼ同等の情報をネットのニュースで得られるようになったからだ。そのネットニュースにH紙のサイトも含まれているのだから、妙な話である。

 逆に、これまで購読をつづけていた理由はというと、競馬場に行くとき、競馬面だけを抜いて持って行けばいいから、というのが一番だ。

 次に大きな理由は、我が軍に関する記事でネットでは読めないものがあることと、10年以上前になるが、そのスポーツ紙に寄稿していた時期があったから、だ。

 我が軍に関する記事も、毎回読むのを楽しみにしていた編集委員のコラムがなくなって久しいし、去年大谷翔平選手がロサンゼルスドジャースに移籍してから、我が軍よりもドジャースのほうが好きになってしまい、読む意欲が薄れてしまった。こうなったら、もうどうしようもない。

 では、今後も一般紙を購読しつづける理由は何か。ひとつは、紙面のどこに、どんな順序で、どのくらいの大きさで見出しや記事が載るかという、紙媒体ならではの特性から世の中で起きていることをつかめるからだ。出版物の広告も、私にとっては情報として価値がある。また、ネットに購読会員用の記事やページがあり、号外なども紙面ビューアで見られるなど、アナログとデジタルを上手く連動させているところもいい。

 そしてもうひとつは、いい大人なんだから新聞ぐらいは毎日読んでおこうという、見栄というか、世間体を考えてのカッコつけのようなものである。実はこれが一番大きな理由かもしれない。

 今の若い人たち、いや、そんなに若くなくても、30代や40代の人たちのなかにも新聞を取っていない人がかなりいると知って驚いたことがある。

 そういう人たちの家には、常時新聞紙が置かれていない、ということなのか。

 先日、相馬野馬追の騎馬武者で、小高郷郷大将の今村忠一さんが贈ってくれた福島の桃がやわらかくなり、新聞紙に包んで冷蔵庫に入れようとしたとき、ふとそう思った。

 私は人の心配をしている余裕はないのだが、それでも、新聞は大丈夫なのか、と思ってしまう。

 昔、フジテレビの報道番組のリサーチャー兼構成スタッフをしていたとき、番組終了後、視聴者からの質問や抗議の電話を受けるのも業務のひとつになっていた。そのなかに、出演していた女性キャスターの化粧が濃く、服装も派手だから注意するように、という中高年の女性からの抗議電話があった。私がめんどくさがっているのがわかったのか、その女性は「あなた、ちゃんと聞いてるの」と声を大きくし、こうつづけた。

「他局の小宮悦子さんをご覧なさい。清楚で、品がいいでしょう。何かあったら、こうして電話したあと、新聞の読者欄に投稿するの。一番怖いのは主婦なのよ。わかった?」

 私は「はい」と答えたが、女性キャスターに抗議の内容は伝えなかった。が、私に競馬を教えてくれた放送作家のウメさんらスタッフから「ずいぶん長電話だったけど大丈夫?」と心配されたので、彼らには話した。それに、スタッフで共有するノートに電話の内容を記さなければならなかったので、キャスターも読んだかもしれない。

 それはいいとして、新聞の読者欄に投稿されると怖い、と感じる人が、今の時代、どのくらいいるだろうか。昔もそれほど怖くなかったように思うが、もっと上の世代にとっては、人を脅したり怯えさせたりするに足るだけの影響力がある媒体だったのだろう。

 今回もとりとめのない話になってしまった。

 今週も北海道に行く。主な取材先は日高の牧場である。少しでも涼しくなってくれるといいのだが、どうだろう。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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