2025年10月07日(火) 12:00
レース前、この馬を少しでも近くで見ようと殺到した観客が、後ろから押されて外埒を乗り越え、コース内になだれ込んできた。新聞やテレビなどで連日取り上げられたほか、少年漫画誌の表紙にもなり、「東京都〇〇様」と馬名を記しただけで年賀状が届いたほどの国民的スター。それがハイセイコーである。
なぜ、ハイセイコーはあれほど強く人々の心をとらえたのか。英雄が求められた時代に登場した「怪物」の蹄跡を、引退から半世紀という節目の今、あらためて辿りたい。
*
時は江戸時代に遡る。
蝦夷地、すなわち北海道でニシン漁が盛んになると、荷物を運ぶため東北地方から南部馬が持ち込まれた。日高地方の街道は比較的早い時期に整備され、馬たちが魚や昆布などを運んだ。
しかし、冬になると人間は仕事ができなくなる。やむを得ず、馬を放牧地に出したまま本州に帰った。その翌春のことだった。再び日高を訪れた者たちの前に目を見張る光景がひろがっていた。
「おい、馬たちが生きてるぞ!」・・・
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。 関連サイト:島田明宏Web事務所
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