2025年10月09日(木) 12:00
先週の本稿に「競馬界の七不思議」について書いたら、旧ツイッターのXで、「国枝栄調教師はなぜか牡馬クラシックを勝てない」とか「外国産の牡馬はなぜかクラシックを勝てない」といった、私が書き漏らしていた「七不思議」を教えてもらった。
さらに、『Number Web』の担当編集者C君から、「今日、『津村明秀騎手はなぜかGIIを勝てない』の七不思議が解決しましたね」と日曜日にメッセージが届いた。津村騎手は、デビュー21年目だった昨年、JRA通算663勝目となったヴィクトリアマイル(テンハッピーローズ)でGI初制覇を遂げ、GIIIもたくさん勝っていた。が、なぜかGIIだけは勝てず、JRA通算717勝目となった先週の毎日王冠(レーベンスティール)がGII初勝利だった。
このように解決する七不思議もあれば、そのまま残るものもあって、「日本馬はなぜか凱旋門賞を勝てない」の七不思議は、来年に持ち越されることになった。
敗因は、馬場、アウェーでの調整、個々の馬の能力や適性などを複合したものだと思うのだが、1度でも勝って「勝因」がわかれば、その裏返しの敗因が明らかになり、2度、3度と勝てるようになるはずだ。と、書きながら思ったのだが、敗因は必ずしも勝因の裏返しとは限らない。負けたときと同じことを繰り返しているうちに勝つこともあるだろう。ともかく、今年のように、タイプの異なる複数の馬で、別々の拠点や前哨戦を使って臨むことが答え探しにつながるはずだ。
さて、今週火曜日、10月7日から連載ノンフィクションノベル「ハイセイコー物語〜時代を勇気づけたサラブレッド」が当サイト『netkeiba』でスタートした。
以前、グリーンチャンネル特番「日本競馬の夜明け」の番組ナビゲーターとしてハイセイコーの関係者にインタビューしたことはあったが、あれから10年以上経つし、活字の連載となるとまた聞きたいことが変わってくるので、今回、あらためて関係者に取材した。
大井のデビュー戦で騎乗した辻野豊元騎手・調教師、中央入り前の2戦で手綱をとった高橋三郎元騎手・調教師、中央入りしてから主戦となった増沢末夫元騎手・調教師、中央で管理した鈴木勝太郎調教師の息子で、当時調教助手としてスポークスマンの役割を果たした鈴木康弘元調教師、引退後に関わった足立玲子さん、生産した武田牧場の3代目・武田博光さんの妻・悦子さんらに話を聞いたほか、次に記す方々に座談会形式でいろいろ語ってもらった。
明和牧場の浅川明彦さん、種牡馬時代に関わっていた松田重夫さん、新冠農業委員会の大下謙二さん、学芸員の乾芳宏さん、そして、ノーザンレイクの川越靖幸さんと、当サイトでもおなじみの佐々木祥恵さん、だ。
さらに、ハイセイコーの代表産駒カツラノハイセイコを生産した鮫川三千男さんの息子の鮫川啓一さんにも話を聞いた。
北海道での取材をコーディネートしてくれたのは、「なんとかハイセイコーの物語を形にできないでしょうか」と、佐々木祥恵さんを通じて連絡をくれた、新冠の元町議会議員の村田貞光さんだった。僅差で敗れた新冠町長選挙に出馬するため町議を辞したので「元」なのである。実家は新冠のハクツ牧場で、ナリタブライアンの担当厩務員だった村田光雄さんの兄でもある。
村田さんがハイセイコーの物語をつくれないものかと考えるようになったのは、前出の武田悦子さんの息子で、武田牧場の代表だった武田洋一さんが、一昨年の12月25日に46歳の若さで亡くなり、武田牧場が馬の生産をやめたことがきっかけだったという。
武田さんの祖父・武田隆雄さんの代に生産されたハイセイコーは国民的ヒーローであったと同時に、新冠のヒーローでもあった。そのハイセイコーの蹄跡をあらためて振り返ることが武田さんを偲ぶことにもなるし、村田さんが愛する新冠を活気づける一助になってほしい、と考えたようだ。
村田さんをはじめとする方々の尽力で、どうにかスタートに漕ぎ着けることができた。あとは私が、資料の読み込みと調べ物をしながら書くだけだ。
賞味期限のある読み物ではないので、来週でも再来週でも、なんなら来年でも、気の向いたときに、少しでも多くの人に読んでもらえると嬉しい。
手前味噌がつづくが、本稿がアップされる日に発売されるスポーツ誌『Number』の秋競馬特集の「名牝図鑑 英雄なくともつながる一族」と「馬主兄弟が語る 親分肌のテーオー、優しいホウオウ」を担当した。
今、開けた覚えのない書斎の引き出しが開いている。私以外に誰もいないので、私が開けたはずなのだが、最近、こういうことが多い。近いうちに、健忘症について書きたいと思う。
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。 関連サイト:島田明宏Web事務所
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