【ハイセイコー物語】アクシデント/第4話

2025年10月28日(火) 12:00

■前回まで

新冠の武田牧場で生まれたハイセイコーは旧2歳だった1971年の9月、大井競馬場の伊藤正美厩舎に入厩した。デビュー前の調教には、一流騎手の高橋三郎と、後輩の辻野豊らが騎乗した。(本文の馬齢は旧馬齢)

 牧場時代の評判、2歳とは思えぬ雄大な馬格、そして、調教で見せたダイナミックな走り……。入厩当初から、ハイセイコーはマスコミの注目の的だった。

 ハイセイコーが3歳になった1972年もマスコミの過熱気味の取材がつづいた。

 前年の春、優勝32回を数えた大横綱の大鵬が引退した。「巨人、大鵬、卵焼き」と、人気のあるものの代名詞となっていた巨星が、表舞台を去ったのだ。

 人々は、意識的にも無意識的にも、新たなヒーローを求めるようになった。

 この1972年の2月に行われた冬季札幌五輪で「日の丸飛行隊」の笠谷幸生、金野昭次、青地清二が表彰台を独占し、日本中を沸かせた。その祝賀ムードはしかし、連合赤軍による「あさま山荘事件」によってすぐにかき消されてしまう。

 英雄不在の時代だった。だからこそ、彗星のごとく現れた才能豊かな大型馬に、人々は夢を託そうとしたのだ。

 3歳になってもハイセイコーの気性の激しさは相変わらずだった。

 調教で跨った高橋三郎は、曳き手綱を持つ馬手の山本武夫に声をかけた。

「山本さん、また最初だけ頼みます」・・・

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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