2025年11月20日(木) 12:00
京都競馬場は今年、開設100周年の節目を迎えた。100年前の1925(大正14)年の12月1日、現在の場所に竣工し、同5日から4日間の秋季開催が行われた。『日本近代競馬総合年表』に、開催最終日の同13日に関してこう記されている。
<秋季最終日、第10競馬各内国産馬優勝競走で、1着のレンド号失格、騒擾事件おこる>
騒ぎの内容は書かれていないが、観客が物を壊すなり、主催者や関係者を襲おうとしたのか。開設4日目の馬見所(スタンド)は、新築特有の木材のいい匂いがしていたはずだ。普通なら安らぐところで暴れたのだから、よほど腹が立ったのだろう。
その2年前、競馬法が制定され、馬券の発売が正式に認められたばかりだった。当時の観客は、儲けたり損したりすることに不慣れで、どの程度まで騒いでいいのかわからず、エスカレートしやすかったのかもしれない。
失格になったレンドは鹿児島の高隈村で生まれた内国産洋種の牡馬で、小倉の帝室御賞典を勝つなどした強い馬だった。父スプレンドールがサラブレッド、母フヨーが内国産洋種なので「サラ系」と分類していいはずだ。
「5」は「10」と同じように区切りになり、目標にしやすいからか、1925年に始まり、今年が100周年というのはほかにもある。
普通選挙法が制定され、満25歳以上の男子に選挙権が与えられたのも、NHKのラジオ放送が始まったのも、東京の山手線が環状線になったのも、東京六大学野球が始まったのも、1925年だった。
こう書いて気づいたのだが、勝馬投票券のほうが選挙権より早く大衆のものになったわけだ。それはそれでアンバランスというか、居心地が悪く、もし自分がそういう時代の大人だったら、思想などは今とは別物になっていたような気がする。
東京商工リサーチによると、今年創業100周年を迎えた企業は、三菱食品、中外製薬、雪印メグミルクなど、全国に2000社あるという。
創業100年を超える企業は全国に4万6601社もあり、創業200周年は伊勢半(東京)、 直源醤油(石川)など7社、300周年は竹本油脂(愛知)、琴平国際ホテル八千代(香川)など8社、400周年は福光屋(石川)、青源味噌(栃木)、中島商店(東京)など7社あるとのこと。
個人や団体、各種法人を含め、最古の周年を迎えたのは、1125(天治2)年に創建されたと伝えられる冠稲荷神社(群馬)で、今年が900周年だという。
ここまで来ると歴史がありすぎてよくわからないが、ともかく、京都競馬場はまだまだ若いと言えそうだ。
菊花賞が行われる京都競馬場は「三冠馬が決まる競馬場」である。2020年にコントレイルが史上8頭目のクラシック三冠馬となったわけだが、これまでのところ、それら8頭すべてが京都で三冠を締めくくっている。もし、改修工事のため菊花賞が阪神で行われた1979年と2021、 22年に三冠に王手をかけた馬が出てきていたとしたら、京都競馬場の関係者はどんな思いで見守ることになったのだろう。
牝馬三冠馬にも同じことが言える。三冠目がエリザベス女王杯だったころも、秋華賞になってからも、2023年に史上7頭目の牝馬三冠馬となったリバティアイランドまで、すべての牝馬三冠馬が京都で誕生している。
さらに天皇賞(春)の舞台でもあるから、京都競馬場の雰囲気には独特の重みが感じられるのか。
さて、行きつけの理容室のマスターが緑内障の手術を受け、店が2週間ほど休みになっていた。で、さっきカットしてもらったとき聞いたのだが、先週の日曜日、術後の見え方を確かめるため夫人と一緒に野毛山動物園に行こうとしたら、途中にウインズ横浜があったので、生まれて初めて馬券を買ったのだという。
3連単を買って、3着だけ外したというから惜しかった。それでも、この20年、日曜日はいつも店にいたので、休日の横浜は新鮮で楽しかったと笑っていた。
今週末はマイルCSの取材で京都競馬場に行く。
最近の京都で思い出深いのは、やはり、リバティアイランドが牝馬三冠馬となった2023年の秋華賞だ。リバティアイランドは今年の4月27日、担当の松崎圭介さんはその2週間ほど前の4月12日に旅立った。
100周年を迎えた京都競馬場で、ふたりを偲びたい。
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。 関連サイト:島田明宏Web事務所
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