ノーザンレイク初のクラウドファンディング「皆様と一緒に楽しんで走り抜けていきたい」

2025年10月28日(火) 18:00

第二のストーリー

「何で俺の部屋は雨漏りするんだ」とすね気味のネコパンチ(提供:ノーザンレイク)

引き続きご支援をよろしくお願いします

 筆者が関わる引退馬の牧場・ノーザンレイクが開場6年目にして初めてクラウドファンディングを実施している。目標額は1500万円。期間中にその額に達しなければもらえない All or nothing方式のため、必要最低限の金額を設定した。

 メイショウドトウや2022年に天に召されたタイキシャトル(ともに認定NPO法人引退馬協会預託馬)、看板牧場猫メトの人気もあってXのフォロワー数が増えた。ポストした内容の反響の大きさや見学に訪れた方々の様子から、応援してくださる方がたくさんいるのはわかっていたつもりだったが、クラファンが始まる前は期待もあったが不安も大きかった。ところが蓋を開けてみれば、支援者数と金額がものすごい勢いで伸び、4時間足らずで目標金額に到達してしまった。クラファン会社の担当者も驚いていた。もちろん当牧場代表の川越靖幸も私も正直驚いた。

 と同時に支援してくれたファンの方々に謝らなければとも思った。ものすごいスピードで目標額に達し、その後も伸び続けて、10月28日15時現在、5700万円あまり集まっている。集まっても3000万円くらいかなと予想していたのにこの金額。支援してくれるファンの方々の力を完全に過小評価していた。この場を借りて謝罪したい。本当に申し訳ありません。そして本当にありがとうございます。

 ノーザンレイクは2020年7月に空き牧場を借りてオープンした。それまで5年以上、誰も使用していなかった。昔の作りの厩舎なので枠組みはしっかりしているのだが、窓のガラスがなかったり、屋根のトタンが剥がれていたりと借りた当初から老朽化が目立っていた。使用していない棟続きの隣の厩舎内は廊下や馬房の床が盛り上がったり崩れたりしているほか、残置物もたくさんあってこちらは最初から使用できる状況ではなかった。

 現在も使用している厩舎は、雨が降ると隣棟に近い廊下や10馬房あるうちの2つが雨漏りすることが判明。それが徐々に広がり、今では4馬房が使用不可。現在ネコパンチが入っている馬房も、強い雨が降ると雨漏りするのでいずれ使えなくなるだろう。

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棟続きの隣の厩舎の馬房の様子。床が崩れている(提供:ノーザンレイク)

 極めつけが隣棟の馬房の屋根だ。トタンが剥がれている箇所が陥没。見学に来たり、写真で見た人は相当インパクトがあるようで、当たり前だがよく心配された。このような状況を見た大工など建設関係者は「修理は考えない方が良い。新しく建てた方が良い」と皆口を揃えた。そう言われても、建設資金はどのように捻出するか? 昨年の牧柵敷設は皆様のご寄付合わせて自己資金で工事したが、厩舎新築ともなると額が違うので牧柵のようなわけにはいかないだろう。

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あくまで応急処置ですが、雪が積もって陥没した箇所から屋根が崩れないように…(提供:ノーザンレイク)

「クラウドファンディング」という言葉が何度もチラついたが、ご寄付をいただいているくせに、クラファン会社で大々的に人様からお金を集めるのはなぜか気がひけた。

 その理由の1つは、オープン前にこうなることが読めなかった甘さがこちらにあるということ。同じ馬産業でも競馬は大きなお金が動く。特にに中央競馬は馬券の売り上げも賞金も高い。馬が売れない時代もあったが、今は馬が売れているし、すべてではないが競馬に関わっていればある程度の収入は見込める。けれども引退馬の牧場の収入は、基本的に預託料。ほぼ手がかからない馬もいるだろうが、年を重ねれば歯が悪くなったり、足腰や内臓の動きが悪くなったり、暑さ寒さのストレスから免疫が落ちやすかったりと、手がかかるようになる。当牧場も昨年春から全馬房に監視カメラをつけて馬たちに変化はないかチェックするようになった。

 さらには養老牧場は馬たちの終の棲家なわけで、看取りも仕事の1つだ。普段から馬たちの健康状態に神経を遣う上、馬の死を前にすると覚悟をしているつもりでも精神的ダメージが大きい。だがその割に引退馬の牧場の預託料は安いと感じる。収入を多く得ようと思うと預かる頭数を増やさなければならない。丸5年運営してきて、年齢、体力、自分たちの力量を考えると多頭数は難しいという結論に達した。

「自分たちが責任の持てる頭数で」

 これが最近の川越の口癖だ。これは5年牧場を運営してきて達した結論だ。必然的に預託頭数は少なくなるのでグッズ販売など預託料以外の収入源を探っているところだが、当初は預託馬をある程度抱えて収入を得ようと考えていたので、これも読みが甘かったことになる。

 また広い敷地の牧場は維持管理に経費や手間暇がかかる。これについての読み目甘かった。

 それなのにクラウドファンディングに頼っていいのだろうか。そういう後ろめたさがあった。確かに自分たちができることはこの5年間精一杯やってはきた。それでも限界があり、修理したり工事をしなければならないところすべてを賄えず、決して満足いく運営はできなかった。

 だがネコパンチの馬房の雨漏りが始まったのを見て、これはためらっている場合ではないと切羽詰まった思いにかられた。そんな折、以前から世話になっていた「にいかっぷ観光協会」が今回のクラウドファンディングを立案し、バックアップをしてくれることになって、尻込みしていた私たちの後押しをする形になった。

 クラファンを実施しながらいまだにこれで良いのだろうかという気持ちにもなるが、クラファンサイトやSNSに寄せられた「癒される写真や動画を投稿してくれるお礼」とか「馬たちに良い環境が整ったら、川越さんや佐々木さんにも良い環境を」など私たちのことを気遣ってくれるメッセージもあった。サイト上やSNS上の盛り上がりを見ると、このクラファン自体を皆さん楽しんでくれているのではないかと思うようになった。

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引き続きご支援をよろしくお願いします(提供:ノーザンレイク)

 ウマ娘が海外でも人気ということもあり、海外からの寄付も多い。

 こんなにもたくさんの方が応援してくれて、新しい厩舎を楽しみにしてくれている。そして老朽化した厩舎で冬を越せるのか心配の声が上がっている。皆様のお陰で資金も集まってきたので、何とか予定(2026年5月末竣工)より早めに厩舎を建てられないか交渉中だ。

 後ろめたさはなかなか払拭できないが、クラファン終了日の12月22日23時まで、支援者やファンの方々と一緒に楽しんで走り抜けていきたい。

(了)


ノーザンレイク公式X

https://x.com/NLstaff

クラウドファンディングの詳細はこちら

https://readyfor.jp/projects/northern-lake

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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