【ハイセイコー物語】最終戦 /第8話

2025年11月25日(火) 12:00

■前回まで

新冠の武田牧場で生まれ、大井の伊藤正美厩舎に入厩したハイセイコーは、3歳時、1972年7月12日のデビュー戦を辻野豊の手綱でレコード勝ちする。落馬負傷した辻野に替わり、2戦目から4戦目までは福永二三雄、5戦目は高橋三郎が乗り、すべて圧勝した。(馬齢は旧馬齢)

 ハイセイコーのデビュー6戦目は、1972年11月27日に大井のダート1600mで行われる重賞の青雲賞になった。

 スタンドはファンで埋めつくされている。

 出走馬は10頭。高橋三郎が乗るハイセイコーは大外枠を引いていた。

 各馬がゲート入りを始めた。途中まではスムーズに進んでいたのだが、オーナーズミカサという川崎所属の牝馬がなかなか入ろうとしない。

 騎手が押そうが叩こうが、係員が2人がかり、3人がかりで入れようとしても、ガンとして動かない。この馬は翌年、浦和の桜花賞で2着となったのち関東オークスを勝つ強い馬なのだが、それだけに我も強いのか。

──これはまずいな。

 高橋はゲートの外で待ちながら、観客の苛立ちの声が高まっていくのを聞いていた。

 5分、10分と時間が経っていく。

 普通なら、これだけゲート入りに手間取れば出走除外にするところだ。

 しかし、主催者としても、また、当のオーナーズミカサ陣営のみならず、ハイセイコー陣営にとっても、それだけは避けなければならない事態である。

 なぜなら、オーナーズミカサとハイセイコーは同じ枠に入っているので、どちらか1頭が除外になると「友引」として、その枠の馬はみな除外になってしまうからだ。

 ハイセイコーまで除外になったら大変な騒ぎになることは目に見えている。

 15分ほど経っても、まだオーナーズミカサはゲートに入ろうとしない。

 スタンドの怒声が大きくなる。・・・

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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