2024年11月27日(水) 12:00
11月に入ってヨーロッパの障害シーズンが本格化しているが、先週末、来年3月14日にチェルトナム競馬場で行われる、スティープルチェイス3マイル路線の大一番、G1ゴールドC(芝26F70y)の前売り1番人気が入れ替わるという、大きな出来事があった。
11月24日(日曜日)に、アイルランドのパンチェスタウン競馬場で行われたのが、G1ジョンダーカンメモリアルパンチェスチェイス(芝23F150y)だった。
この路線の強豪が多く顔を揃えた中、3年連続でこのレースをシーズン緒戦に選択したのが、ウイリー・マリンズ厩舎のギャロパンデシャン(セン8、父ティモス)だった。
仏国産馬で、祖国でハードルを1戦した後、20/21年からマリンズ厩舎に所属している同馬。ハードルを1シーズン飛んだ後、21/22年からスティープルチェイスに転身。このシーズンは4戦し、G1ゴールドCノービスチェイス(芝20F)など2つのG1を含む3勝。22/23年も4戦し、22年のこのレースや、チェルトナムのG1ゴールドCなど3つのG1を制し、路線の頂点に立った。
23/24年は5戦し、連覇を果たしたG1ゴールドCなど3つのG1を制し、王者の座を防衛。シーズンオフの間、自身の3連覇がかかるG1ゴールドCへ向けた前売りで、1番人気の座にあったのは、この馬だった。
だが、G1ジョンダーカンメモリアルパンチェスチェイスに出走したギャロパンデシャンは、オッズ4.2倍の2番人気で、ファンがオッズ2.5倍の1番人気に支持したのは、マーティン・ブラシル厩舎のファスタースロウ(セン8、父サンデサン)だった。
同馬も仏国産馬で、祖国で3戦2勝の成績を残した後、20/21年シーズンからブラシル厩舎に在籍。22/23年シーズンの最終戦となったのが、G1パンチェスタウンゴールドC(芝24F30y)で、ここを制してG1で重賞初制覇を果たす離れ業を演じた。
実は、この時の2着馬がギャロパンデシャンだったのだが、23/24年シーズンの緒戦となったG1ジョンダーカンメモリアルパンチェスチェイスを制した際にも、3着だったギャロパンデシャンに先着。さらに、24年5月のG1パンチェスタウンゴールドCでも、ギャロパンデシャンを2着に退けて優勝。王者ギャロパンデシャンにとっては天敵のような存在で、だからこそ、24日のレースでもファンはこの馬を1番人気に支持したのである。
もっとも、ギャロパンデシャンが連覇を達成した昨季のG1チェルトナムゴールドCでは、ファスタースロウは16号障害で落馬。大物食いではあるものの、全幅の信頼は置きづらい馬というのが、ファンの偽らざる心境だった。
そのジョンダーカンメモリアルパンチェスチェイス。序盤からレースを引っ張ったのは、ギャロパンデシャンと同厩のグランジクレアウエスト(セン8、父プレゼンティング)だったが、6号障害飛越後に、そこまで2番手にいたギャロパンデシャンがハナに立って馬群を先導。12号障害の手前で、そこまで3〜4番手にいたファスタースロウが2番手に上がり、上位人気2頭の争いになるかと思われた。
ところが、最終障害飛越直後にギャロパンデシャンの外に馬体を併せてきたのは、道中馬群内側中団にいた3番人気(4.5倍)のファクトトゥファイル(セン7、父ポリグローテ)で、同馬がギャロパンデシャンを交わして先頭へ。
さらに、道中最後方からゴール間際に鋭い末脚を繰り出したのが、昨季のG1チャンピオンノービスチェイス(芝24F213y)勝ち馬スピレインズタワー(セン6、父ウォークインザパーク、19倍の6番人気)だったが、ファクトトゥファイルがこれを1/2馬身退けて優勝。ゴール前で脚がなくなったギャロパンデシャンが、2着馬から2.1/4馬身差の3着。
さらに3.3/4馬身遅れた4着がファスタースロウだった。仏国産馬で、22/23年からギャロパンデシャンと同じアイルランドのウイリー・マリンズ厩舎に所属するのがファクトトゥファイルだ。ナショナルハントフラットを3戦した後、ハードルを経験することなく、23/24年にスティープルチェイサーとしてデビュー。2戦目で初勝利を挙げると、続くレパーズタウンのG1ラドブロークスノービスチェイス(芝21F107y)を制し、G1で重賞初制覇。
さらに、チェルトナムフェスティヴァルのG1ブロードウェイノービスチェイス(芝24F110y)も制し、3連勝で昨シーズンを締めくくっていた。すなわち、ノービスクラスを卒業し、初めてこの路線の一線級と顔を合わせたのがG1ジョンダーカンメモリアルパンチェスチェイスだったのである。
2着となったスピレインズタワーもまた、昨シーズンにスティープルチェイスデビューを果たした馬で、結果として今年のG1ジョンダーカンメモリアルパンチェスチェイスでは、新興勢力が既成勢力を凌駕することになったわけである。ブックメーカー各社は、3月14日のG1ゴールドC(芝26F70y)へ向けた前売りで、今季初戦のここで通算3度目のG1制覇を飾ったファクトトゥファイルを、オッズ3.0〜3.75倍の1番人気に浮上させ、オッズ4.5〜5.0倍の2番人気がギャロパンデシャン、これに次ぐオッズ9.0〜11倍の3番人気がスピレインズタワーとなった。
スティープルチェイス3マイル路線における、新興勢力と既成勢力のせめぎあいが今後、どう推移していくかに注目したい。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。
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